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事件的な快走劇に忘れ去られた悲しいネモシンのある点と線!


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 それは昨年4月21日。東日本大震災から1年を経た福島。その福島は原発など今なお被災の爪あとが深く残り、生まれ育った故郷に帰りたくとも戻れない多くの人々。家族が離散し、間借りで苦悶されている皆さんがいます。

この日、4月21日は2年ぶりに開催された春の福島競馬。メインは「福島牝馬S」でした。このとき2番枠に入っていたのがコスモネモシン。4番人気でした。福島の芝1800mで、先行馬、内枠有利という、ごく常識的な考えから私は◎に推したのでした。

コスモネモシンはその2走前の京都牝馬Sで先行馬には厳しい流れの2番手を追走。スピードのあるところを見せていたのです。従って、強力な逃げ馬が不在の福島牝馬Sは、2番枠でもあり、当然ながら枠順の有利さを主張してくるものと思えたのです。

ところが、好スタートから前に出て行こうとせず、後方に下げるあまりにも消極的な作戦。これにはさすがの私も天を仰ぎました。そして後方から4角で大外に出して直線鋭く迫ってきたところがゴール。積極的前に出たオールザットジャズの2着でした。2着だったからいいという見方もありますが、私にしてみれば、勝てるレースを騎乗ミスで取りこぼした、という思いが強く残ったものです。この日以来、騎乗したT騎手◎を打った記憶がありません。T騎手と別れの一戦でもあったのです。

このコスモネモシンはT騎手がお手馬のようにして騎乗していましたが、昨年が未勝利で、福島牝馬Sの2着が1回、というよりも5着以内の掲示板がこの福島牝馬Sだけという淋しい現実がそこにあったのです。

今年は6月のマーメイドSから和田騎手でカムバック。函館記念、クイーンSと16着、7着。シンガリとブービーでT騎手でした。そのT騎手から今回の新潟記念は、中山牝馬Sやヴィクトリアマイルで騎乗した松岡騎手にバトン。それでも私には心が動くほどの魅力がすでにコスモネモシンから消えていたのです。

強力な逃げ馬が不在。そして新潟外回りの2000m。間違いなくスローペース。内からカリバーン、その外にエクスペディション。外にニューダイナスティとトレイルブレイザー。お互いが相手の気配、動きを見つつ主導権を取ったのが末脚勝負のエクスペディション。これにニューダイナスティが続き、内からサンシャイン、外にファタモルガーナ。トレイルブレイザー、カリバーンが好位置。その後ろに内ピッタリとコスモネモシンがいたのです。2番人気のブリッジクライムだけがポツンと最後方。各馬は一団の形で進みます。

日本一長い外回りの新潟の直線コース。先頭でエクスペディション、並びかけようとニューダイナスティ。外にファタモルガーナとトレイルブレイザー。その内にサンシャイン横にはカリバーンとカルドブレッサ。そのときインをピッタリにコスモネモシンが急上昇で前に接近。

 そして、何かを思い出したかのように、猛然と前を行くエクスペディションに迫ります。それはここ数戦のコスモネモシンとは別馬のようでした。ゴール前で馬体をエクスペディションの外に併せたコスモネモシンがクビ差捉えて、まさに劇的な優勝。まさかという思いからか、興奮のあまり高々とステッキを片手に右手を上げる松岡騎手の雄叫びが聞こえるかのようでした。

 10番人気のコスモネモシン。単勝は6530円。52Kのハンデにやや重馬場。そしてインコースをピッタリに走らせ、彼女になにか闘争心のようなものを目覚めさせた松岡騎手。3年7ヶ月という競走馬にとっては長い下積み生活から見事に甦らせることができた、人と馬の劇的な勝利でもあったのです。