「おめでとうございます。やりましたねー」というと、「ありがとうございます!最高の気分です」と、私の右手を両手でギューッと握り返してきた内田博騎手。いつもに増して数倍の力で、私の手がしびれるくらい。この力の加減具合が彼の嬉しさなんだろうな、と感じ取りました。
今年の東京優駿・日本ダービーは、5連勝中で向うところ敵なしの1番人気ヴィクトワールピサと、無敗の4連勝で勢いに乗っている2番人気ペルーサ。さながら2頭のマッチレースの様相。ところが、スタートでペルーサが大きく出遅れてしまい、スタンドから溜め息まじりの声。先行すると思われたハンソデバンドが、躓くアクシデント。
内から赤い帽子の2頭、コスモファントムとアリゼオが出てきて、外からシャインが先行態勢。アリゼオが主導権でその直後の外にシャイン。3番手にコスモファントム。まあ予測された展開でした。有力馬のほとんどが差し、追い込み馬なので、割って入れば先行馬、それも内枠からスーと行けるアリゼオには願ってもない展開だろう。皐月賞だって不利な大外18番枠から出て0秒3差の5着なのだから、と◎の期待。
この形で前半は一団で我慢比べのような超スロー。前半の1,200m通過が1分15秒1で、2,000m通過が2分4秒8。まれにみるスロー。私は思い通りの展開に、一瞬、ほくそ笑んでいたのですが、それは裏を返せば、唯一アリゼオの不安でもあったのです。外からプレッシャーをかけられると、意外にもろさがあるということでした。流れがあまりにも遅くて、終始外からシャインがアリゼオにプレッシャーをかけ通し。これに嫌気を出したのかアリゼオは誘導馬のように直線で急に失速。ついて行った先行各馬も次々に失速。そこを割って出たのが後藤騎手のロー ズキングダム。一瞬、突き抜ける勢いで躍り出たのですが、その内から矢のように突っ込んできたのがエイシンフラッシュ。
「道中のペースは遅かったのはわかっていたけど、強い馬がすぐ前にいたし、中途半端に動くよりも直線勝負に賭けよう、必ずいい脚を使ってくれる馬だから、彼を信じて乗りました。馬は今までで一番いい状態だったと思います。当然ですがスタッフの方に感謝したいですね」と内田博騎手。続けて「地方から中央に来て、ダービーで勝つのが夢だったので、ヤッター!という感じですね」と、頬を紅潮させながらインタビューに丁寧に答えてくれました。
一方、ヴィクトワールピサにとっては、ラスト33秒1の脚を駆使しながら無念の3着。その辺を岩田騎手は「皐月賞よりもスタートは良かったし、ポジションも考えていた通りでしたが、少し馬が力んでいたようでした。それでもよく走っていたのですが、捉えられなかったのは、力みのぶんかも知れません。力があっても、すべてが噛み合わないと勝てない、これがダービーを勝つことの難しさなのかも知れません。残念です」と、肩を落としていました。
薔薇一族のローズキングダムは、小牧太騎手のピンチヒッターで騎乗。首差2着でしたが最高の騎乗だったと思います。「これだけの速い上がりの競馬の中で、躍動感のある走りをしてくれました。ローズキングダムを誉めてあげたいですね」と、悔しさよりも責任を成し遂げたような清々しい顔。彼にも拍手を送りたい気持ちにさせられました。
ペルーサはスタートで勝負あった、という印象でしたが、結果的に人気を分けたヴィクトワールピサとは0秒3差の6着。「青葉賞のように普通に出てくれたらよかったんだけど、ゲートだけは仕方がないね。それ以外は頑張って走ってくれたし、ダービーで終わるような馬でもないから、これからもペルーサを応援してほしい」と、横山典騎手。ひと夏越してまた成長したペルーサに秋には会いたいものです。
同様に、超良血、女傑エアグルーヴとキングカメハメハの仔ルーラーシップ。直線ヴィクトワールピサとゲシュタルトの外に馬体を併せるように鋭く伸びてきました。菊花賞が楽しみになった1頭です。
今年の3歳馬はハイレベル。この馬達が秋に向けて、この夏どんな成長を見せるのか、スタンドから内田博コールが巻き起こる中で、脳裏はもう秋の情景に飛んでいました。
ラスト32秒7!神業的な末脚で一刀両断!内田博エイシンフラッシュ渾身の一撃!!
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