ドラマチックな一日、というよりも激闘の東京春開催が終了し、それぞれが夏開催に向けて旅立ったばかりの検量室前。閑散としたその前に1台の自転車が猛スピード向って来ました。
流れ出る汗を拭き拭き堰を切って飛び込んできたのがエプソムカップで、ある意味、主役級の活躍をした柴田大地騎手。
ロッカールームに駆け込んで行くと、急いで何か荷物を手にして戻って来ました。目と目が合うなり「お疲れ様でした!」と彼はペコリ。
「エプソムCは惜しかったね~」と向けると、
「ええ、直線で先頭に立ったときは、あまりにも手応えが良かったので、おお、勝っちゃうんじゃないのって、胸がドキドキしましたよ」と、ニコニコ顔で言うなり、また乗ってきた自転車に乗ると「じゃ、またー」と彼。
「ローカルも頑張れよ」と言うと、「はーい、ありがとうございます」と柴田大騎手は来た通路を、全速力で戻って行きました。
彼が騎乗した馬はマイネルスターリー。ここ3戦は小倉大賞典が11着で、中日新聞杯が13着。そして前走の新潟大賞典が8着。ベストが函館、札幌の北海道ということもあって、この日も単勝146・9倍の15番人気と、話題にもならないくらいの超人気薄。
1週前に安田記念の衝撃的なレコード決着。直後の一戦でマイネルスターリーの陣営には絶望的なムード。それを、もしかしたら、ひょっとして、というムードに変えさせてくれたのが“雨”でした。
予報では降っても1㍉か2㍉程度の雨だったのが、前日の土曜日はワンサワンサ、ジャンジャン降り続いてダート不良。芝が重。芝ではほとんどの馬が内を避け、外に出して進路を取る、まさに1週前とは天と地の違い、まったく異なる舞台を見ているようでした。
“シメタ!”と柴田大騎手が考えたかどうかはわかりませんが“高速時計ではお手上げだが、時計をうんと要する馬場になったのは実にラッキー。レッゴーキリシマ以外は前に出てきそうにもないので、これは思い切って積極的に進めよう・・”そう呟いているように感じました。これは彼のコメントからも間違っていなかったようです。
予想通りゲートがあくやいなや飛び出して主導権を主張するレッゴーキリシマ。なんと流れが遅くなると読んだか1番人気のトーセンレーヴが2番手という強気の作戦。さらにすぐ後ろに好枠を生かしてマイネルスターリー。外にはレディアルバローザとサンライズベガが 併走。この後に前に行く当面の敵トーセンレーヴを念頭に、2番人気ダノンシャークが積極的に好位置を確保。その外にはこれも追い込みの3番人気レッドデイヴィスが追走。離れず中団には内に3歳馬セイクリッドレーヴ。後方に控えたのがダイワファルコン、ヤマカツハクリュウ、モンテエン。
先頭のレッゴーキリシマから最後方のメイショウカンパク、キングストリートまで10馬身ちょっとくらい。ほぼ団子状態の展開。向う正面で2番手に進出したマイネルスターリー以外は、ほとんど動きのない展開で進みます。
3角でレッツゴーキリシマがややペースアップ。これにピッタリとマイネルスターリーと、外にトーセンレーヴ。4番手のサンライズベガ以下がやや置かれ気味。そして最大のポイントとなったのが、4コーナーのところでした。先頭のレッツゴーキリシマは馬場中央に進路を取ります。その外にトーセンレーヴ。大きくガラリと開いた内側をピッタリと進んだのがマイネルスターリー。当然ながら内と外の差は大きく一気に先頭。ここが勝負どころと判断したか、柴田大騎手は気合を入れて後続との差を広げにかかります。
「おお、勝っちゃうかも・・」と彼はゴールを目指して懸命にしごきます。
トーセンレーヴのウイリアムズ騎手もこれはマズイと思い、ターゲットをマイネルスターリーに絞って、手綱を必死にしごき先頭を追います。さすがに馬場は外側が良く、坂を上がってからの伸び脚が違いました。スターリーを捉えるとそのままゴールに飛び込みました。大外からグイグイと迫ってきたダノンシャーク。脚色は一番でしたがトーセンレーヴにクビ差まで詰め寄ったところがゴールでした。
マイネルスターリーが楽々3着を確保。全力を出し切った満足感。柴田大騎手の表情は3着とはいえ清々しい印象のように窺えました。
レッドデイヴィスは鳴尾記念のような強烈な末脚を見ることはできませんでしたが、一にも二にも馬場コンディション。良馬場であの豪脚を再び期待したいところです。
この日競馬場から、遠く東京スカイツリーと東京タワーが望めました(クリックすると拡大された画像に、かすかに写っています)。