ふと心に思うところがあって、何年か振りにぶらりと旅に出掛けました。一人旅ゆえに気の向くまま、足の向くまま、風まかせの旅。
それは新潟記念が終わったばかりの9月2日のことでした。私は新潟駅に立っていました。金沢行きの特急に乗れば、今夜中には金沢に着ける、明日の夜は富山の八尾町に寄って、あの「おわら風の盆」が観られるぞ。9月3日まで行われているので、哀切漂う越中おわら節が夜通し流れる風情もいいなあ・・と思いつつ、結局、足が向いて乗車したのは一転、北行きの列車。秋田に向っていたのでした。
新潟発18時48分、特急「いなほ11号」酒田行き。この時間帯では秋田行きの直行便はなく山形の酒田が終点。新潟駅で尋ねると、そこから秋田行きの各駅電車が出ているとのこと。
晩夏というべきか初秋というべきか、微妙な季節の風の中を、定時通りに発車した、いなほ11号は、夕闇迫る中、突然出現した虹と、黄金色に輝く越後平野を、ひたすら北へ北へと走り続けたのです。
山形、酒田駅に到着は20時58分。午後9時前ことでした。駅のホーム側に置かれたケースから「リーンリーン」と鈴虫の鳴き声。傍には朱色と黒色の獅子の顔がデーンと鎮座。旅人を歓迎してくれているような雰囲気が、旅する者にはとてもホッとで嬉しく感じられました。
向かい側のホームから秋田行きの普通電車が出るというので、3両編成の電車に急ぎ乗り換えると、ほとんど間なく発車。そして秋田に向かい闇の世界の風を切っていました。
車内は旅行客とおぼしき女性のグループもいましたが、その土地、土地の趣を感じさせる、それぞれの世代の人が乗り込んで来ました。
おそらく左側に日本海が見えたりするのだと考えていたら、それが真っ暗な闇で、都会では見ることができない無の世界。ただただ車内の灯かりと、停車する駅の灯かりに安堵感を覚えるのでした。
ハッとして、車内のアナウンスで目を開けると、そこはもう秋田駅の近くまで来ていました。時計を見たらもう23時。2時間も各駅停車に揺られて辿り着いたのです。
初めて見る秋田駅の風景。名物の「なまはげ」のビッグなお面が駅の改札口に飾ってあって、秋田に来たぞ!という証しのようなものを感じさせてくれました。
駅で時刻表を頂いて、途中の駅で予約したホテルに直行。遅い時間なのに秋田駅内は実に美しく、秋田杉を素材にしたようなフローリング調の床や壁面は、秋田独特ののぬくもりが伝わって来るような優しい気持ちにさせられたものです。
駅に直結しているコンコースを抜けて下に降りると、直ぐそこに宿がありチェックイン。部屋に入って窓のカーテンを開くと、そこは宝石をちりばめたような世界が眼下に広がっていました。
そこで駅でもらった時刻表を広げて見ていたら、五能線「リゾートしらかみ」の文字が目に飛び込んで来ました。
秋田の日本海の海岸線を走り、世界自然遺産の白神山地を抜けて、津軽冨士といわれる岩木山、太宰治の風が感じられる五所川原。そして弘前、青森と行く五能線。私は思わずその世界に飛び込んでしまいたい気持ち衝動に襲われ、これは絶対行きたい、このために今回は旅に出たのかも知れないと思うようになりました。時間にして乗車5時間。五能線で青森に向うことを決断したのはこのときでした。
ところが、ところがです。ホテルのフロントで訪ねると、その女性スタッフは前に1度乗ったことがあると言います。ただし、天候で運転が中止になることが、よくあるから駅で直接聞いたほうがいいと不吉な知らせ。う~む、これはまずい、と思うや駅に向って飛び出していました。
時間が時間なので改札口の駅員は店じまいといった雰囲気でしたが、駅員に尋ねると天気が悪化したりしなければ、予定通り運行されるとのこと。ただし、「リゾートしらかみ」は、人気があってかなり席が埋まっているので、どうかな?と首をひねって、微妙な空気を伝えてきました。すでにパソコンもダウンしたので、明日駅に来て申し込んで下さい、と言われて、仕方なく部屋に戻りベッドに潜り込んだのでした。 <続く>
さらば夏の日、感動!感激!五能線に魅せられて・・その1
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