競走馬にとって必ずやって来るのがラストラン。その一戦でその馬の評価が決まるとあれば、関係者にとっては、まさに全力投球、渾身の仕上げで臨むことになるはずです。
3月10日、中山では「中山牝馬S」が行われました。このレースを最後に、現役引退を決めているスマートシルエット。それは関係者の期待を一身に背負って、その最後の勇姿を披露すべく、全力投球のストレート勝負!
彼女にとってラストランに選んだこの中山の舞台こそが、最高のパフォーマンスを演じることができる最高の舞台だったはずです。それは、もっとも得意としている芝1800mという距離。加えて、中山が初めてといってもコーナー4つの内回り。先行力を生かすこの馬にとっては大きな後押し要因。
しかも、今回は強力な同型馬を欠いて、単騎一人旅も期待できる展開。前走の東京新聞杯は、強力な牡馬陣を相手に、直線持ったままで2番手から先頭に立ちかける見せ場十分の内容。今回は牝馬相手にハンデが54K。休養明けをひと叩きして、調教でも抜群の動きと上々の気配。私は負ける要素が見当たらず、これは押し切れると考えました。
スマートシルエットにとっては、府中牝馬S2着など重賞好走はあるものの重賞はまだ未勝利。それゆえ今回の中山牝馬Sは、残された最後にして最大のチャンス。優勝すれば重賞優勝馬として繁殖牝馬の価値は、何倍も何十倍も違うはず。それゆえ馬主、今後の生産者にとっても、優勝という一文字に託された期待感は、おそらく過去の比ではない、という見方をしていました。
前日の午前中のオッズは5番人気の10倍台。ところが当日は2番人気の6倍。ビックリするくらい株価が急上昇。これは尋常ではない“大量買い”が入っていることを実感。
さて、注目のスタート。主導権を取ったのは好スタートを決めた1番枠のダイワズーム。2番手にスンナリとスマートシルエット。この形でも問題はないが、理想は主導権を取った一人旅と考えていた私は、やや不満が残る2番手という展開。この形でスローの直線ヨーイドンは、府中牝馬S、東京新聞杯と同じで、何かに差し込まれるかも知れないと案じたからでした。
好位置にサンシャインが付けて、1番人気のオールザットジャズが中団。そこには4番人気のオメガハートランド。この2頭を前に見る形で内にマイネイザベル。昨年の札幌記念を制した5番人気フミノイマージンが最後方で展開。
前半の3ハロンが37秒3、半マイル通過が49秒6。過去10年でもっとも遅いペース。
逃げるダイワズームのペースで進み、2番手のスマートシルエット。好位置にはサンシャインという形は変わらず。4角で外からオールザットジャズが仕掛けて前に接近。そのあとには、内にオメガハートランド、外にマイネイザベル、そして大外をまわって一気に仕掛けたフミノイマージンが進出。
ここからゴーサインを出したスマートシルエットが逃げるダイワズームに並びかける勢いで先頭争い。頑張るダイワズーム。外からオールザットジャズ。後ろにはオメガハートランドとマイネイサベル。直後にはフミノイマージン。
坂を上がってスマートシルエットが抜け出たところへ、外から素晴らしい伸び脚でマイネイサベルが強襲。一気に捉えてゴールイン。2着にはスマートシルエット。そしてオールザットジャズ。
わずかに及ばなかったスマートシルエット。有終の美は残念でしたが、その先行力としぶとさは、子供たちに伝わるような気がします。
「本当に残念!勝った馬も取り口も、あの府中牝馬Sの時とまったく同じだものね・・」と、悔しそうに語る大久保龍きゅう舎の関係者であるK氏。肩を落として口をへの字に結んでいました。