お互いがお互いを意識する余りに、そこには手綱を操る乗り手同士の微妙な空気。そして時間の経過と共にかかるプレッシャー。3歳マイル王決定戦「NHKマイルC」は、そうした神経戦の様相も呈していました。
2.9倍という圧倒的な支持を集めた重賞2連勝中のエーシントップ。初芝の毎日杯でマイル通過1分33秒7というケタ違いのスピードと、粘り腰を見せつけたガイヤースヴェルト。また勝負強さはここ右翼のレッドアリオンに、2戦目の千両賞でマイル1分33秒6駆け抜けたスピード馬コパノリチャード。朝日杯FS3着のゴットフリートが5番人気で前を追っていました。
当然、主導権を取ったのがダッシュ力で上回るコパノリチャード。このコパノリチャードの逃げをピッタリとマークする作戦を取ったのがガイヤースヴェルト。そして、この先行2頭を徹底してマークする形になったのが、人気の中心エーシントップ。
コパノリチャードの福永騎手は、背後でマークされるのを承知の上での逃げ。一方でガイヤースヴェルトのウイリアムズ騎手は、前のリチャードをマークしつつエーシントップを警戒。その直後で前の2頭を相手と見ていたエーシントップの内田博騎手は、当然ながらピッタリとついて行って、早目に捉まえ押し切ることが勝利への道と考えていたように思われます。この先行3頭、眼下のライバル同士は、そのライバルを破れば優勝だ!思いは同じようでした。
前半3ハロンが34秒4で、半マイルが46秒1。前半33秒台を連発していた過去のNHKマイルCからみても平均的なペース。高速決着が続く極上の馬場コンディションという現在の状況下にあって、この流れは先行した3頭にはまさに願ってもないペースだったように思います。
快調に逃げるコパノリチャード。これを直後でピッタリとマークするガイヤースヴェルト。この2頭に目標を絞って進めるエーシントップ。まさに息を呑むシーンが続きます。それは4コーナーまで“静まり返った”神経戦の闘いのようにも思えたほどでした。
エーシントップの内田博騎手にしてみれば、ガイヤースヴェルトがコパノリチャードを捉まえに仕掛けたときがゴーサイン。一方でガイヤースヴェルトにしてみれば、背後のエーシントップの脚色を見つつ、逃げるコパノリチャードを早目に捉まえたい。
で、4コーナーを回って直線に向いたときでした。エーシントップが少し置いていかれる場面があったのです。ペースが11秒7から11秒3に上がったときでした。その一瞬を見たウイリアムズ騎手は、コパノリチャード一本の追撃体制に目標を切り替えたようにも見えました。
残り2ハロン、400mの時点で逃げ込みを計るコパノリチャードの福永騎手の手が動きます。それに並びかけようとするガイヤースヴェルト。2頭が3番手以下を少し離したかのように見えましたが、エーシントップ、フラムドグロワールも接近。あと1ハロン、200mを切ってコパノリチャードに並びかけたガイヤースヴェルトが先頭。懸命に頑張るコパノリチャード。その外にフラムドグロワールが接近。外にエーシントップとインパルスヒーロー。そのとき外のインパルスが内にささり気味になりエーシントップの内田博騎手が絞られる形で手綱を引きます。そして大外に出したマイネルホウオウがもの凄い脚で強襲。
先頭に立ったガイヤースヴェルトをゴール寸前で一気に呑み込み、内にフラムドグロアール、中にインパルスヒーロー、外はマイネルホウオウが馬体を併せたままゴールイン。外のマイネルホウオウがクビ差抜け出ていました。
ステッキを右手で空に向け、大きな雄叫びをあげる柴田大知騎手。そして深くガッツポーズをして再度の雄叫び。
柴田大知騎手はこの勝ちが通算200勝目。しかも平地のGIで初制覇。1996年3月2日の初騎乗以来、4546戦目、35歳でのことでした。
感極まって泣きじゃくる柴田大知騎手。「勝てなかった年が何年も続いたので200勝は考えられない数字です。諦めないでよかった。本当に多くの方に感謝しています」と涙を拭いながら喜びのコメント。きっと双子の弟ジョッキーであった柴田未崎騎手(現在、調教助手)も、兄の快挙を祝福していることでしょう。