それはあまりにも強烈でした。型破り、常識破り、ペガサス、破天荒、そして神馬。ありとあらゆる形容詞が並ぶほどの絶大なインパクトがありました。それは衝撃でした。神業的な衝撃でした。
その2歳馬はハープスター(栗東・松田博きゅう舎)大評判のディープインパクトを父に持ち、母が名牝ベガの血を引くヒストリックスター(父ファルブラブ)。全兄がピュアソウル。2勝馬で現在500万。この全兄は410K台のあまりにも小造り。
ところが、弟のハープスターが新潟2歳Sのときの馬体重が474K。同じ血統でありながら格段の馬格の差。その馬格の違いが、とんでもないスケールを持った競走馬に変身させていたのでした。
8月25日、新潟競馬場。第33回「新潟2歳ステークス」。ここ2年の勝ち馬がモンストールとザラストロ。昨年のザラストロはレコード勝ち。ところが、この2頭はその後、大不振に陥り、現在ももがき苦しんでいるのです。
近年、まあ、ここ4年は3着まで入った12頭中、9頭が前走で新馬勝ち。要するに前走で新馬勝ちした馬が圧倒的に優勢なのが、この新潟2歳Sなのです。
そんな状況の中で、今年1番人気に推されたのがハープスター。前走、7月の中京戦で、直線、仕掛けられると破格の末脚で一気に突き抜けて、後は余裕綽々に圧倒する大胆な勝ちっぷり。単勝2.6倍という新潟2歳Sのオッズにも、ある意味で納得でした。
そして、スタート。注目のハープスターは17番枠。タイミングの取り方が下手のか、出負けして後方に置かれる展開。しかも、逃げると思われたセトアローが行かず、アラマサクロフネやコロナプリンセスも控える作戦。これで極端に流れが遅くなりました。
主導権を取ったのがアポロムーン。これを2番手でマーブルカテドラルが引っ掛かり気味に付ける展開。直後のアポロスターズ、マイネルメリエンダが折り合いに専念。前半の半マイルが47秒9。1000m通過が1分0秒7。スローペースでレースは進みます。このペースだと勝ちタイムが1分35秒台だろう、という読みが、私の脳裏を過ぎりました。
そんな流れの中で、わが道を行く、といった如く、最後方でのんびり走る1番人気ハープスター。3角、そして勝負どころ4角でも変化はなし。ああ、このとき私はハープスターの敗退を覚悟しました。抜群の手応えで直線先頭に立ったマーブルカテドラルに比べると、あまりにも絶望的な位置。しかも、直線では大外に出す大胆なレース運び。完全敗退、ハープスター敗れたり!と、場内の誰しもが思ったそのときでした。
直線大外から唯1騎、猛然と追い込んで来る馬がいました。それはまさに翼を持ったペガサスのように、グングンと迫って来たのです。そして、あっという間に外から先頭に立つと、一瞬だけ時間が止まったかのように、瞬きする間もなく3馬身も突き抜けていたのでした。ゴールインのときは川田騎手が抑える余裕すら見せて、堂々と駆け抜けて行ったのです。
まるでそれはアニメか、次元を超越するかのような驚きの光速破壊力。あの偉大なる父ディープインパクトを彷彿させます。ちなみに、勝ちタイムが1分34秒5、ラストがなんと32秒5。レースの上がりタイムが33秒8、それを最後方18番手から一気差しして、楽々3馬身差のパフォーマンス。こんな常識破りの芸当が出来る馬なんて、トップクラスの古馬でも、まずお目にかかることができません。
いやあ、私たちは凄い馬に出会うことができました。クラシックはむろん、来年はキズナ同様に凱旋門賞が狙える馬かも知れません。怪我なく無事に成長して欲しいものです。