まさか、ということが競馬においては、よくありがちなことであるとはいえ、今回の「京成杯オータムH」を見ていて、痛いほど身に染み渡りました。
それというのも戦前から杉浦調教師が「なにがなんでも行かせる」と公言していたルナが、なんとなんと出遅れてしまったのです。ここまで先行力に加えて持久力をアップさせて、メキメキと頭角を現してきたルナにとっては、初重賞挑戦であり本格化ぶりをアピールできる舞台でした。
天気予報が小雨模様ということも影響したのか、前走の関屋記念で3着と地力の確かさを見せつけたレオアクティブ。休養明け3走目、昨年の京成杯AHのレコード勝ちの実績からも、これが1番人気か、と考えていたのですが、なんと当日は5番に人気まで後退。これは意外でした。
安田記念3着のダノンシャークが3ヶ月ぶりの実戦にもかかわらず前日から午前中までは1番人気。ところが、スタートが近づくにしたがって、グングンと票数を集め出したのがルナだったのです。重賞はむろんこれまでオープンでも走ったことがないルナが1番人気。まさか同きゅう舎のレオアクティブの上を行く人気になるとは、正直、読めませんでした。
加えて、あん上の横山和騎手も重賞未勝利。彼の父親である横山典騎手(レオアクティブ騎乗)の上を行く人気を集めるなんて横山典騎手もビックリしたかも知りません。
メンバー構成から同型と思われたテイエムオオタカ。今回は久しぶりのマイル戦。この距離で7戦し未勝利、連対ゼロのテイエムオオタカにとっては、いつもの短距離戦よりも折り合いに専念して、久々のマイルを乗り切る算段だったはず。しかも、8枠の13番を引いたことにより、余計に慎重に乗ってくると考えたのです。逃げるルナにとっては、まさに願ってもない展開に持ち込めそうでした。そこをファンも察知。ルナ1番人気に拍車がかかったようでした。
ところが、現実はフタを開けてみるまではわからないものです。ゲートが開くと、なんとルナが大きく出遅れてしまったのです。焦った横山和騎手は、ルナを懸命に押して先頭を目指します。外からスンナリと先頭に立ったテイエムオオタカが難なく主導権。直後に好スタートを決めたミッキードリームにゴットフリート、ワイズリー。その外からルナが必至に先頭を追います。テイエムオオタカにようやく並びかけたルナ。テイエムもスピードに乗っていて、そう簡単に先頭は譲らない構え。ようやくルナが先頭に立てたのが、スタートしてから400m過ぎのこと。
前半の3ハロンが34秒0、半マイルが45秒2。短距離戦並みのペースで進んで行きます。ルナの直後にはピッタリとテイエムオオタカ。ここまで短距離戦を走ってきているだけあって、ルナに比べて追走にも余裕があります。
離れた3番手にゴットフリートとドリームバスケット。直後のインにミッキードリームで、並んでワイズリーとエクセラントカーヴ。背後にはダノンシャークが迫っています。中団のインにレオアクティブ。後方にインパルスヒーローで、ポツンとフラガラッハが最後方。
1000mを56秒7で通過し、4コーナーから直線に入ったルナですが、2番手のテイエムオオタカがここぞとばかり馬体を併せてきます。外からゴットフリートと黄色い帽子が2頭。エクセラントカーヴにダノンシャークが急追。直線中程で戸﨑騎手のエクセラントカーヴが先頭に立ち、それをダノンシャークが追います。勝負はこの2頭で決まり。ゴットフリートがしぶとく伸びて、窮屈なインから伸びたミッキードリームを振り切って3着を確保。レオアクティブは8着。そしてルナが10着。
ゴール過ぎにポンポンとクビの上を叩く戸﨑騎手のエクセラントカーヴが、喜びのウイニングランをしていました。
申し訳なさそうに引き上げてきたルナの横山和騎手。「もともとビューンと行ける馬ではないので・・」と、消えそうな声で答えていましたが、彼自身もこの一戦で大きく学んだはずです。やはり、競馬は距離に関係なくスタートが本当に大事です。つくづくそう感じました。