「GIを勝つ馬って、どっか他の馬とは違うよね。サクラゴスペルはGIを勝つだけの、ここ一番のワンパンチが足りないんだよな。高松宮記念にしても、安田記念にしても、ここでガツンと弾ける何かが足りない。そこが歯がゆくてね」とスプリンターズS直後のレースビデオを見終えたばかりの横山典騎手が私にポツリ。
注目のGI「スプリンターズS」は、1.3倍と圧倒的な人気に推されたロードカナロアが優勝。GI5連勝を達成しました。
抜群のスタート、まさにロケットダッシュを決めたハクサンムーン。逆に「何が何でも主導権は譲らない」と、言っていたフォーエバーマークは、なんとスタートでモタついて、村田騎手が必死にシゴいて2番手に上がったものの不本意な競馬でギブアップ状態。パドトロワ、サクラゴスペルが2番手グループを争う形。
少し離れたところの内にマヤノリュウジン。その直後にドリームバレンチノ、馬体を併せる感じでダッシュがつかなかったロードカナロア。その外にはマジンプロスパー。ダッシュがつかなかったグランプリボスと、アドマイヤセプターが後方の内々を追走。
前半の3ハロンが32秒9。昨年が32秒7だったことから、ほとんど同じようなペース。ただ、好ダッシュから単騎逃げに持ち込んだハクサンムーンにとっては最高の形。ロードカナロアが直線で外から来るまで、追い出しを待つ余裕さえ感じられました。
直線でフォーエバーマーク、パドトロワが脱落。逃げるハクサンムーン、懸命について行こうとするサクラゴスペル。その時でした。グーンとロードカナロアがハクサンムーンに馬体を寄せて行きます。
それは弾よりも早く、機関車よりも強く、スーパーマンのようでした。
ハクサンムーンも目下の充実ぶりをアピールするかのような最後の抵抗を見せていましたが、大相撲で言えば、横綱白鳳。GIを勝ちまくってきた貫録、役者が数段上でした。昨年のスプリンターズSと同じく1馬身近く突き抜けて優勝。GIでは負けないロードカナロア神話が、また1ページ加わりました。
敗れたといっても崩れないスプリンター、ハクサンムーンも2着と拍手ものの頑張り。内からしぶとく伸びたマヤノリュウジンウジン。大外から猛追したマジンプロスパーが馬体を併せて3着争いでしたが、マヤノリュウジンが頑張って3着。
またドリームバレンチノ、グランプリボスが詰め寄ったものの伸びきれず5、6着。勝ち馬と0秒3差でしたが、GIの短距離戦では、この差が実に大きいのです。ロードカナロアが短距離界のトップホースでいられるのも、ここにあるのです。
横山典騎手と話していると、スーッと横にやってきたのが岩田騎手。「おめでとう」と手を差し出す横山騎手。「ありがとうございます。いやあ、半完歩出負けしたので、ヒヤヒヤでした」と、汗を拭う岩田騎手。手に取った冷やしてあるペットボトルを、ゴクゴクと音を立てて飲み干すと、重圧からと解き放たれた表情が印象的でした。