「勝つと言うことを意識してしまうと、馬に影響してしまうので、なるべく自然体でいることを心がけました」
1月26日、中山競馬場。ウイナーズサークル前の壇上に、その日の主役、その人はいました。松山康久調教師でした。
この日、7レースの条件戦で、後藤騎手を背にコウジョウがゴール前で差し切って優勝。コウジョウは松山厩舎所属。それは1000勝という記念すべき1勝でした。松山師は前日の若潮賞でカフェリュウジンが優勝。「999」勝目に到達。1000勝の大台に王手がかかっていました。
1000勝到達はJRA史上14人目で、現役2人目となる偉業。開業が1976年3月で現在70歳。勇退が迫っていたことからも、1000勝達成はどうしても成し遂げたい気持ちだったことでしょう。
松山師の父である松山吉三郎元調教師も現役時に1358勝の偉業を達成。息子である松山康氏の目標でもあったはずです。
「まだまだ父の足元にも及びませんが、なんとか一つの目標が達成できたので、父も少しは喜んでくれていると思います。皆様、どうもありがとうございました」と、壇上で感慨無量に語る松山師。
そこをニコニコしながら見て通る尾形充弘元調教師会長。「良かった、良かった。彼は内の系列(尾形厩舎)だからね」と、実に嬉しそうでした。
JRA史上初となる親子2世代の1000勝達成。まさに歴史的記録でもありました。その歴史的勝利に貢献した後藤浩騎手。前日のカフェリュウジンで999勝。そしてコウジョウで1000勝と大活躍。
「もしかしたら川田にもっていかれる(日曜・京都10レース 山科Sカフェシュプリーム2着)かも知れないので先に勝てて良かったです」と、後藤騎手ならではのコメントで、まわりの報道陣を笑いの渦に巻き込んでいました。
あのミスターシービーでクラシック3冠を制して、ウイナーズサークルで茨城県栗山牧場に初めてのダービー制覇をもたらした松山泰久師。同馬は福島デビュー(4着)ということも異色でした。
父の松山吉三郎さんは、言わずと知れた厳しい方で、取材する私も厳しく叱られたことがありましたが、息子の康久師は性格的に温和で、ひとつひとつ丁寧に教えて頂いたことが思い出されます。
新潟市内の古町にある人生を語るママがいるパブ「S」のMさんは「こっちに来ると必ず1度はのぞいてくれる律儀な方」と、目を細めます。
積み上げてきた1000勝という軌跡。「これほどの数字になるとは思いませんでした。本当にオーナーの方の応援、そして支えてくれたスタッフ。本当にありがたいです」と松山康久師。
帰り際に私の手をぎゅっと両手で握ってくれて、師の心が伝わってくる温もりを感じてジーンときてしまいました。