その時、赤と黒縦縞に黒袖の1頭の馬が一気に先頭。地面を揺るがすような大歓声の中をゴールへ向って真一文字に駆け抜けていきます。
それはまるでアカデミー賞の授賞式でビロードのような敷き詰められた真っ赤な絨毯の上を、選ばれし者だけがウォーキング出来る特別な空間。それにも似た誇らしげに、そして力強く勇者は駆け抜けて行きます。
エイシンフラッシュでした。あの一昨年の日本ダービーで栄冠を手にした5歳の代表格エイシンフラッシュでした。前を遮るものはなし。視界良好。対岸ではフェノーメノ、カレンブラックヒルなどが争っています。
エイシンフラッシュのためにだけ用意されたVロード。ゴールに到達した瞬間、あん上のM・デムーロは勝利のステッキを右手に高々と掲げて、興奮をそのまま全身でアピール。
それはアカデミー賞で主演男優賞を手にしたときのトロフィーを高々と掲げて、喜びを全身で表現したしたときのパフォーマンスそのものでした。
今年は近代競馬150周年という記念すべき年の天皇賞。7年ぶりに天皇皇后両陛下をお迎えして、例年以上に盛り上がった天皇賞となりました。
出走馬の中にオルフェーヴルの名前こそありませんでしたが、3歳GI馬で無敗のカレンブラックヒル、そしてダービー2着のフェノーメノが参戦。レコード決着だった昨秋の天皇賞で1、2着のトーセンジョーダン、ダークシャドウ。有馬記念でオルフェーヴルの2着だったエイシンフラッシュ。宝塚記念でオルフェーヴルの2着馬ルーラーシップ。まさにトップクラスの馬が集結。
ところが、高速馬場が続いた東京競馬場に土曜日の夜半から雨。天気予報は日曜午後から雨でしたが、ほぼ午前中で小雨は上がり、午後になると陽射しも見える天気となっていました。
それもあってか芝コースはインサイドよりアウトサイド、できるだけ外側を選択して走らせようとする各騎手の思惑があったようです。このことが結果的に大きく左右することにもなりました。
主導権を取ったのは2番枠を引いたシルポート。小牧太騎手が気合を入れて捨て身の逃げ。みるみるうちに後続との差を広げていきます。離れた2番手にカレンブラックヒル。この展開は毎日王冠と同じ。また離れてダイワファルコンが3番手で、そこからまた間が開いてフェノーメノ。直後にアーネストリー、その外にジャスタウェイ。そしてダークシャドウが中団の外。その内にエイシンフラッシュ。ナカヤマナイトがいて外にトーセンジョーダン。後方のインには出負けしたルーラーシップ。先頭のシルポートから一気に縦長になる展開。
前半の3ハロンが34秒8、4ハロンは46秒0。かなり速いピッチでシルポートが飛ばします。3コーナーでは2番手のカレンブラックヒルと優に10馬身以上もある大きな差。後続はほとんど動きません。1400m通過が1分20秒7。レコード並みのハイピッチで逃げるシルポート。4コーナーを大きな差をつけたまま先頭でまわったシルポート。1600m通過が1分32秒7。
あまりの先頭との差に4角をまわったところで、2番手のカレンブラックヒルが追い出しにかかります。ダイワファルコンが続き、少し離れてフェノーメノ。アーネストリーにジャスタウェイが進撃開始。中団のダークシャドウは進路を外に取ります。ここが勝負の分岐点でした。エイシンフラッシュが最内の経済コース。後方のルーラーシップも直線は外に進路を選択。
急激に脚色が鈍ってきたシルポートを捉えたカレンブラックヒル。とはいえ4角から仕掛けたので、初めての2000mということもあり、毎日王冠で見せた我慢強さは消え失せていました。そこを直後のフェノーメノが抜け出し、これは勝たれたかと思った瞬間、ラスト200mでガラガラの最内からもの凄い勢い伸びてきたのがエイシンフラッシュ。経済コースを走り温存した末脚を全開。一気に先頭に立つとゴールに向って真一文字。フェノーメノが抵抗する間もありませんでした。
ゴール前で外からダークシャドウがジワジワと迫って来たのですが、後方から強烈な伸び脚でルーラーシップが強襲。
結果はエイシンフラッシュ、半馬身差でフェノーメノ。3着ルーラーシップ、4着ダークシャドウ。カレンブラックヒルが5着。また3歳の同期、ジャスタウェイは毎日王冠に続きカレンブラックヒルとクビ差。この辺は格なのでしょうか。
スタンド前に引き上げてきたエイシンフラッシュのM・デムーロ騎手が、下馬して右足を地面に付き、ヘルメットを外して来賓席の天皇皇后両陛下に深く最敬礼。両陛下も賞賛の拍手で迎えられました。