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Archive for 競馬

エアシェイディと伊藤正師と後藤J

 シャンパンルームの前で馬主の吉原氏は、これ以上ないというような笑顔を見せて、「おめでとうございます」という私に「いやいや、どうもありがとう」といい、私が手にしていた、ナイガイ紙の大きな見出しに目をやり「おお、すごいや。いや、ありがとう」と、手を取ってきたのでした。
 この日の中山メインは「アメリカJCC」。中長距離の古馬戦線で、重要な意味を持つ一戦。実際、昨年の優勝馬マツリダゴッホは、オールカマーにそしてグランプリ有馬記念を優勝。そのマツリダゴッホに続けと、ドリームパスポートが一昨年の神戸新聞杯以来の優勝を目指して登場。このパスポートにとっては負けられないレースだったのです。
 というのも、単勝オッズが2・2倍。圧倒的な支持率。それよりも何よりも、パスポートが有馬記念まで所属していた栗東の松田博きゅう舎のレース方針に、馬主サイドが反旗をひるがえして、栗東から美浦の稲葉きゅう舎にわざわざ転きゅう。それからの一戦だったわけです。騎乗した松岡騎手は、有馬記念でも騎乗していた高田騎手に電話をし、そのクセを教えてもらった、と下調べにぬかりはないことを公表。
 考えてみれば、有馬記念に未勝利の高田騎手を、乗せてしまった事が突然の転きゅうになった大きな要因の一つとして語られている経緯。本来ならば、いわく因縁のある巡り合わせなのです。
 私のドリームパスポートの評価は、実績、実力は文句なしに一番。現在の古馬陣では間違いなく最高位にランクされる馬なのです。ところが、長期休養明けのブランクからジャパンC、そして有馬記念。この2戦を叩いたのですが、菊花賞でレコードの2着、ジャパンCでディープインパクトの2着した当時の状態にはまだないとの見方。加えて、転きゅう初戦。どういう風に仕上げたらいいのか、直前はどう追い切ればいいのか、細かい部分について、稲葉きゅう舎のスタッフは知りようがないと思えたのです。それゆえ有馬記念から10k増。デビュー以来、最高馬体重となる484k。完璧の仕上がりではなかったはずです。
 で、私はエアシェイディに自信の◎。そもそも、このエアシェイディは1月、2月がすこぶる強い冬季絶好調型。3年前のAJCCが2着で、当時の時計が2分11秒6で、昨年のマツリダゴッホの時計を1秒2も上回る好タイム。一昨年2月の白富士賞優勝。昨年の東京新聞杯2着、2月の中山記念2着。
 また、伊藤正きゅう舎は昨年の1月、中山最終週を残したところで、連対率3割3分3厘。今年は同じケースで連対率5割。1月の活躍馬が目立っていました。
 重賞、未勝利馬がハンデ戦の中山金杯で57kも背負って2着。重賞馬並に評価される080131 エアシェイディにとっては、何んとしても手にしたい重賞馬の冠でした。
 「伊藤先生の馬で勝つことができて、やはり嬉しいですね。わずかな年月しかいませんでしたが、恩師は恩師。いつまでも恩師ですから。偶然、ドリームパスポートの後ろにはいることができたし、直線もしっかり我慢できて追い出すことができました。点数ですか、そうですね、はい、100点満点です」と、私の質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた後藤騎手。彼にとっても今年の初重賞勝ち。嬉しい1勝だったようです。

5分後に本番です! ビックリ飛び起きた私!?

 それはそれは驚きました。1月21日のことです。早朝、携帯電話の呼び出し音に起こされて、電話に出ると、いきなり電話のかけ主はこんな事を言うのです。
「アベコーさん、おはようございます。BSNラジオのHです。今からラジオに生出演できますか」と、ディレクターのH氏。
「ふぁ?! おふぁよう…です。ふぁジオ?」と、まだ夢ご心地の状態で、頭脳がテキパキと働いていない状態。
 というのも、その日は突然の急ぎの原稿の仕事で、朝6時近くまで原稿を作成中。そうでなくても木曜日から新聞やら自らの携帯の予想やらで、根を詰めていたせいかバタバタ状態。どうにか仕事をやり遂げたあとは倒れるように夢の世界。
「アベコーさん、今日はスポーツライターのOOさんにお話を聞く予定でしたが、事情で急に来れなくなって、出演できなくなったんですよ。なにぶんにも急だったものでして、それじゃ困ったときのアベコーさん、ということで急いで電話を掛けさせてもらったわけなんです」とH氏。
「ふぁい、えーっ、これからですかー!」と私。
「そうなんですよ。で、競馬の楽しさ、馬券などをからめて、お話しして頂ければと思いまして。ただ、時間帯的に主婦の方が対象になるものですから、競馬を知らない方にもわかるようなお話をお願いしたいんです。尺は10分ちょっとなんですが…」
「そうなんですか、分かりました。じゃあどれくらいで…」と言うか言わないで、
「アベコーさん、本番まであと5分しかありません。」
「ヒェー!! あのあ、あと5分!? まだ寝床…」
080124「お願いします。お相手はご存知の近藤アナです。それじゃ5分後に改めてお電話します」と、締めくくったHディレクター。
「わあー、大変だ! 大変だ! 歯磨きに、えーとシャツにネクタイ?! あっ、それはいらない。起抜けだから声が、声が、あー、いー、うー、えー、ほー。じゃない、おー。口がうまく回らないかも。お、え、う、い、あー。あっあっあー、山のアナアナ、アナタもう寝ましょうよ。おー、寝ちゃまずいんだ!」

 で、番組は9時スタート。電話の向うに私を紹介する声が…。
「ワンダフル競馬でお馴染みのアベコーさんで~す」と近藤アナ。
「おはようございま~す。突然でビックリしていま~す」と返すと、笑い上戸の近藤アナが独特のガマの鳴くような声で、
「ガハハハ…ガハハハ…」
 で、話は先週1週前の話に「いやね、15日の火曜日、古くから付き合いのある馬主の方や、親しい知人、調教師さん等と、TCK大井競馬場に行ったんです。着いた場所は『Diamond Turn』といって、そこはバイクング形式の食事をしながら、競馬を観戦できるスペースで、馬券も買えるんですね。先に着いていたIさんが、どうしても馬券が当たらない。どうにか助けてよ、というものですから、こう言ったんです。じゃあ、全部買っちゃえば…と」
「実はこのレースは8頭のレースだったのですが、1頭が回避したので7頭立て。3連単、つまり1着と2着と3着をキッチリ当てる馬券があって、この3連単を全通りの組み合わせを買うことを勧めたわけなんです。そうしたら、そのIさん、わかったわかったといって、210点、100円で2万1000円を投資。そうしたら、そのIさんは大丈夫かな? 本当に大丈夫? というわけなんです。ハハハ…大丈夫。必ず当たるわけなんですからと、言っても不安そうなんです」
「やはり、自信をなくしているんですかね。で、どうなりました?」と近藤アナ。
「いやあ、応援が面白いんですよ。おお、そのままと言ったり、それでもいい、と言ったりね。結局、全部買っているわけですから、人気薄の馬が来てくれたほうが配当がいいわけなんですけどね。それで、結果は3連単が8万8940円也! 勧めたほうがビックリしました。大儲けですよ」
「まあ、競馬はこんな風にいつもうまくいくとは限りませんが、競馬を通して応援したり、感動したり、会話を楽しんだり、結果として現金のプレゼントがあるかも知れない。ストレス解消。たったワンコイン100円で、素敵な夢が買えるんです。人生に1度は競馬というものに参加しましょうよ。お待ちしています」と、寝起きにもかかわらず熱弁。
 BSNラジオの近藤文靖の独占ごきげんアワーは、かくして持ち時間いっぱいとなったのでした。