2月18日(日)東京最終日、第7レース。一人の騎手が顔をくしゃくしゃにしながら検量室前に戻ってきました。「コバキュー」こと小林久晃ジョッキーです。
小林久晃騎手。現在フリー。彼の騎手生活は騎手の持病でもあるともいわれる腰痛との闘いの日々でした。技術はトップクラスのものがあるといわれながら、あっという間に10年選手。そして31歳を迎えました。
「アベコーさん、腰痛がひどくて、いやあ、辛いですね。うまくいくか分からないけど、思い切って手術をしようかな、と思います」と、彼はつぶやくようにいいました。それは、ある夏のとても暑い日ことでした。
東京最終日、この日の7レース、ピーターキャット(7番人気)に騎乗した小林久晃騎手は最後方。私自身がこの馬を狙っていたこともあって、双眼鏡の焦点を彼を中心に合わせていました。
向う正面で、これは来る!間違いなく来る!という直感が。なんと前を行く他の馬よりも楽しそうに、ノビノビ走っているのです。3コーナーから外を回り、じわじわっと進出態勢。そして直線はゴール前で早目に先頭に立ち、必至に追いまくるコバキューちゃん。
「コバキュー、頑張れっー!もう少しだ!」と個人的大応援。少し内にささりながらも、見事にゴールに飛び込んでくれました。
「おめでとう、キューちゃん!」
「ありがとうございます。ああ、勝てて良かった!」
そこに、デビューから所属していた高橋祥調教師が
「おめでとう、良かったね」と肩をポンと叩いて行きました。
「折り合いさえ付けば、終いがいいので、結構やれると思ったのですが、良く走ってくれました。ほんとに感謝しています」
「腰痛ですか、アベコーさん、それよりもケガした時にやっちゃった肋骨に、ヒビが入っていて、まだ痛むんですよ」
おお、痛かろう、辛かろう、それでも、ゴール前で必至に追いまくったプロ魂。さすがです。そして、東京競馬場での勝利が2001年6月10日以来、5年8ヶ月ぶりであることを知らせると、
「本当ですか、ずいぶん勝っていなかったから。サウスアーニストですよね。石毛きゅう舎の・・」覚えていました。
ちなみに、その日も東京最終日で、なんと7レース。しかも、今回と同じ500万クラス。歴史は繰り返されるのです。
小林久晃騎手には、とにかく早く肋骨を治して、勝ち星をどんどん積み重ねて行くように激励。にっこりスマイルで返してくれました。いいヤツです。