有馬記念の直後に行われた最終レース、ハッピーエンドプレミアム後、まだオルフェーヴルの優勝の余韻が残る喧騒のスタンド。一気に夕闇がつつみ始めたそのスタンド前に登場したのがブエナビスタでした。
背中の上の恋人、池添謙一騎手とゆったりとスタンド前の本馬場に再登場。歓声に動揺するでもなく、どっしりと落ち着いて、いわゆる“大人の女”のオーラを醸し出しているようでした。
有馬記念。その年を代表する馬が一堂に揃い踏みするグランプリレース。ジャパンCで天皇賞馬トーセンジョーダンと激しい死闘の末に競り落とし優勝。また凱旋門賞1、2着馬も一蹴。まさに日本を代表する女傑となったブエナビスタが、頂点に立った瞬間でもありました。
さあ、次はグランプリだ、有馬記念だ、ということは良くわかります。一方で、あのウオッカのように引き際というものがあるはずです。
レコード決着となった天皇賞で、自身も過去最高のタイム1分56秒4で走り、惜しくも4着と敗れたものの激しい競馬を走り抜いたダメージは少なくなかったはずです。それでも、さすがに女傑ブエナビスタ。驚く回復力で、ジャパンCでは天皇賞馬に輝いたばかりのトーセンジョーダンをねじ伏せたのです。考えてみれば、この優勝は昨年秋の天皇賞以来、13ヶ月ぶりの勝利でした。昨秋のジャパンCで悔しい2着降着。その悔しさを晴らさんと臨んだジャパンCでもありました。
時計が2分24秒2、昨年の時計が参考タイムながら2分24秒9と比較しても、今年のハードさが理解できます。いずれにしても宿願としていたジャパンCを制したことにより、本来はブエナビスタ物語の幕が降りたはずでした。
11月27日、ジャパンCの余韻が、まだ近くの府中駅界隈の競馬ファンに残る中で、私は競馬通の知人やお世話になった人たちと、ある行きつけの居酒屋で、秋競馬お疲れ様を開いていました。その帰りにビルに入り口で、ほろ酔い気分のご機嫌なご一行様と遭遇。ブエナビスタのひと口馬主会員の方たちでした。
私に気が付くと誰かれとなく握手を求めてきました。私もその勢いに乗って、けやき通りで一緒に万歳三唱。その方たちは有馬記念のブエナビスタのシルシを、それぞれ口々に尋ねてきましたが、激しい叩き合いを演じたジャパンCの優勝で、有馬記念のブエナビスタは優勝はない、と考えた私は、ただ笑ってすますだけでした。
天皇賞、ジャパンCと一昨年を上回るハイレベルの戦いを演じて、欲しい金メダルを手にしたブエナビスタ。おそらく有馬記念はお釣りがない状態だったと思います。それでも有馬記念に参戦せざるを得なかったのは、プライド?エゴ?圧力?わかりませんが、持てる力を振り絞り、懸命に頑張って7着に入ってきました。それはブエナビスタが燃え尽きた瞬間でもありました。
夕暮れの闇の中で、照明に照らされたブエナビスタ。ファンのブエナビスタコールが響く中で、なにかホッとしたブエナビスタの姿を、その優しい穏やかな目を見たような気がしました。
引退式!穏やかな目のブエナビスタ。そしてグランプリ有馬記念出走に思う!
ナリタブライアンに続いた3冠馬のオルフェーヴルのグランプリ制覇!!
史上2番目、9頭ものGI馬が出走した豪華版のグランプリ「有馬記念」。なかでも注目は史上7頭目のクラシック3冠馬オルフェーヴル。ジャパンCを制してこの有馬記念がラストランになる女傑ブエナビスタの新旧対決。
ところが、単勝オッズは結果的に2・2倍のオルフェーヴルに対して、ブエナビスタは3・2倍。断然のオルフェーヴルの支持です。それは、菊花賞を圧勝し、ジャパンCには目もくれず、有馬記念を一本に臨んで来る3冠馬にとって絶対有利な条件でした。
逆にブエナビスタやトーセンジョーダンなどにとっては天皇賞で激しいレコード決着。続くジャパンCでもラスト33秒9の末脚を駆使したブエナビスタ。この状況の中、中3週で迎える今年最後の大一番のグランプリレース。オルフェーヴルに対してジャパンCの上位陣の臨戦過程の不利は明らかでした。
引退したウオッカはジャパンCで優勝のあと、有馬記念を走ることなく引退し、年度代表馬に輝きました。もっとも、ウオッカは右回りをパスしていたこともあり、有馬記念回避は当初から決定していたこと。同じ牝馬のブエナビスタも有馬記念はさすがに女傑とはいえ疲労が積み重なりギリギリの状態であったはずです。ゆえにジャパンCで引退させるべきだったと思いました。
私は今回の有馬記念は、オルフェーヴルが断然有利で、ゴールに限りなく近い馬であることは、当然ながら納得していました。もし、敗れるとしたら昨年9月の芙蓉S以来の中山ということよりも、超スローペースで消極策を取り、直線でヨーイドンの競馬になったときかも知れないということを考えていました。
そこで、穴党としては中山に替わったことで、中山4戦4勝すべて重賞の昨年の有馬記念の覇者ヴィクトワールピサに期待しました。ジャパンCは長期休養明けというブランクのもとで、後方でトボトボと走り、直線は大外でロスのある競馬。上位を諦めたデムーロ騎手が手加減した追い方のようにも思えました。次走が有馬記念ということを意識した騎乗と見たのです。
そして、今年の有馬記念の最大のポイントが強力な逃げ馬が不在。このことが各陣営に与えた心理的影響は少なくありませんでした。
スタートを決めたアーネストリーがじんわりと先頭に立ち、2番手は各馬が様子見の中からダッシュがつかなかったヴィクトワールピサ。そしてスローペースを意識して最内からブエナビスタ。その外にトーセンジョーダン。抑えきれない勢いでエイシンフラッシュに、レッドデイヴィス、トゥザグローリー、ヒルノダムールと続き、後方には出遅れたオルフェーヴルがここにいて、ルーラーシップ、ジャガーメイル、ローズキングダムという展開。5ハロン過ぎあたりで一段と減速13秒1-14秒4-14秒3-13秒0という未勝利クラス並みの極端なスロー。
これはオルフェーヴルには避けたかった最悪の展開。しかも、ほとんどの馬が直線勝負に身を委ねたのか、あるいは金縛りにあったかのような状態でレースは進みました。
主導権を取ったアーネストリーの外にヴィクトワールピサが並びかけるのですが、直ぐにまた引いて2番手。その直後にブエナビスタとトーセンジョーダン。まさに心理戦の闘い。3コーナー過ぎでした。外を回ったオルフェーヴルがじわじわと進出態勢。
ラスト3ハロンが34秒ジャストの争い。後方待機馬には厳しい展開でしたが、外を回って進出したオルフェーヴルの末脚迫ってきます。直線でアーネストリーがギブアップ気味。代わってヴィクトワールピサが踏ん張るところを、外からトーセンジョーダン、内にブエナビスタ。さらに内からエイシンフラッシュが急接近。直線中程からオルフェーヴルが鋭く差し込んで一気にそのままゴールイン。内から良く伸びたエイシンフラッシュが2着。その外から強襲したトゥザグローリー、大外から鋭く伸びたルーラーシップが3、4着に食い込んで、5着がトーセンジョーダン。ブエナビスタは7着。ハナ差でヴィクトワールピサでした。1着オルフェーヴルから10着アーネストリーまで0秒6差の大接戦。凄いレースでした。
「キツかったですね。イメージしたよりも後ろになって、スローでしたからね。それでも直線は沈むようにハミを取って伸びてくれました。力でネジ伏せてくれましたね。本当に強い馬です。まだまだ成長しているので、来年はさらに強いオルフェーヴルをお見せできるはずです」と、池添騎手も愛馬オルフェーヴルの強さに脱帽。競馬ファンの一人として最大目標の凱旋門賞に夢を馳せたいと思います。