fbpx

当たり前のことですがスタートがすべての結果に繋がる原点!ああ、初重賞制覇ならず!

 まさか、ということが競馬においては、よくありがちなことであるとはいえ、今回の「京成杯オータムH」を見ていて、痛いほど身に染み渡りました。

 それというのも戦前から杉浦調教師が「なにがなんでも行かせる」と公言していたルナが、なんとなんと出遅れてしまったのです。ここまで先行力に加えて持久力をアップさせて、メキメキと頭角を現してきたルナにとっては、初重賞挑戦であり本格化ぶりをアピールできる舞台でした。

 天気予報が小雨模様ということも影響したのか、前走の関屋記念で3着と地力の確かさを見せつけたレオアクティブ。休養明け3走目、昨年の京成杯AHのレコード勝ちの実績からも、これが1番人気か、と考えていたのですが、なんと当日は5番に人気まで後退。これは意外でした。

 安田記念3着のダノンシャークが3ヶ月ぶりの実戦にもかかわらず前日から午前中までは1番人気。ところが、スタートが近づくにしたがって、グングンと票数を集め出したのがルナだったのです。重賞はむろんこれまでオープンでも走ったことがないルナが1番人気。まさか同きゅう舎のレオアクティブの上を行く人気になるとは、正直、読めませんでした。

加えて、あん上の横山和騎手も重賞未勝利。彼の父親である横山典騎手(レオアクティブ騎乗)の上を行く人気を集めるなんて横山典騎手もビックリしたかも知りません。

130912_01130912_02 130912_03

 メンバー構成から同型と思われたテイエムオオタカ。今回は久しぶりのマイル戦。この距離で7戦し未勝利、連対ゼロのテイエムオオタカにとっては、いつもの短距離戦よりも折り合いに専念して、久々のマイルを乗り切る算段だったはず。しかも、8枠の13番を引いたことにより、余計に慎重に乗ってくると考えたのです。逃げるルナにとっては、まさに願ってもない展開に持ち込めそうでした。そこをファンも察知。ルナ1番人気に拍車がかかったようでした。

 ところが、現実はフタを開けてみるまではわからないものです。ゲートが開くと、なんとルナが大きく出遅れてしまったのです。焦った横山和騎手は、ルナを懸命に押して先頭を目指します。外からスンナリと先頭に立ったテイエムオオタカが難なく主導権。直後に好スタートを決めたミッキードリームにゴットフリート、ワイズリー。その外からルナが必至に先頭を追います。テイエムオオタカにようやく並びかけたルナ。テイエムもスピードに乗っていて、そう簡単に先頭は譲らない構え。ようやくルナが先頭に立てたのが、スタートしてから400m過ぎのこと。

 前半の3ハロンが34秒0、半マイルが45秒2。短距離戦並みのペースで進んで行きます。ルナの直後にはピッタリとテイエムオオタカ。ここまで短距離戦を走ってきているだけあって、ルナに比べて追走にも余裕があります。

 離れた3番手にゴットフリートとドリームバスケット。直後のインにミッキードリームで、並んでワイズリーとエクセラントカーヴ。背後にはダノンシャークが迫っています。中団のインにレオアクティブ。後方にインパルスヒーローで、ポツンとフラガラッハが最後方。

130912_04 130912_05

 1000mを56秒7で通過し、4コーナーから直線に入ったルナですが、2番手のテイエムオオタカがここぞとばかり馬体を併せてきます。外からゴットフリートと黄色い帽子が2頭。エクセラントカーヴにダノンシャークが急追。直線中程で戸﨑騎手のエクセラントカーヴが先頭に立ち、それをダノンシャークが追います。勝負はこの2頭で決まり。ゴットフリートがしぶとく伸びて、窮屈なインから伸びたミッキードリームを振り切って3着を確保。レオアクティブは8着。そしてルナが10着。

 ゴール過ぎにポンポンとクビの上を叩く戸﨑騎手のエクセラントカーヴが、喜びのウイニングランをしていました。

130912_06 130912_07

 申し訳なさそうに引き上げてきたルナの横山和騎手。「もともとビューンと行ける馬ではないので・・」と、消えそうな声で答えていましたが、彼自身もこの一戦で大きく学んだはずです。やはり、競馬は距離に関係なくスタートが本当に大事です。つくづくそう感じました。

事件的な快走劇に忘れ去られた悲しいネモシンのある点と線!

6

 それは昨年4月21日。東日本大震災から1年を経た福島。その福島は原発など今なお被災の爪あとが深く残り、生まれ育った故郷に帰りたくとも戻れない多くの人々。家族が離散し、間借りで苦悶されている皆さんがいます。

この日、4月21日は2年ぶりに開催された春の福島競馬。メインは「福島牝馬S」でした。このとき2番枠に入っていたのがコスモネモシン。4番人気でした。福島の芝1800mで、先行馬、内枠有利という、ごく常識的な考えから私は◎に推したのでした。

コスモネモシンはその2走前の京都牝馬Sで先行馬には厳しい流れの2番手を追走。スピードのあるところを見せていたのです。従って、強力な逃げ馬が不在の福島牝馬Sは、2番枠でもあり、当然ながら枠順の有利さを主張してくるものと思えたのです。

ところが、好スタートから前に出て行こうとせず、後方に下げるあまりにも消極的な作戦。これにはさすがの私も天を仰ぎました。そして後方から4角で大外に出して直線鋭く迫ってきたところがゴール。積極的前に出たオールザットジャズの2着でした。2着だったからいいという見方もありますが、私にしてみれば、勝てるレースを騎乗ミスで取りこぼした、という思いが強く残ったものです。この日以来、騎乗したT騎手◎を打った記憶がありません。T騎手と別れの一戦でもあったのです。

このコスモネモシンはT騎手がお手馬のようにして騎乗していましたが、昨年が未勝利で、福島牝馬Sの2着が1回、というよりも5着以内の掲示板がこの福島牝馬Sだけという淋しい現実がそこにあったのです。

今年は6月のマーメイドSから和田騎手でカムバック。函館記念、クイーンSと16着、7着。シンガリとブービーでT騎手でした。そのT騎手から今回の新潟記念は、中山牝馬Sやヴィクトリアマイルで騎乗した松岡騎手にバトン。それでも私には心が動くほどの魅力がすでにコスモネモシンから消えていたのです。

強力な逃げ馬が不在。そして新潟外回りの2000m。間違いなくスローペース。内からカリバーン、その外にエクスペディション。外にニューダイナスティとトレイルブレイザー。お互いが相手の気配、動きを見つつ主導権を取ったのが末脚勝負のエクスペディション。これにニューダイナスティが続き、内からサンシャイン、外にファタモルガーナ。トレイルブレイザー、カリバーンが好位置。その後ろに内ピッタリとコスモネモシンがいたのです。2番人気のブリッジクライムだけがポツンと最後方。各馬は一団の形で進みます。

日本一長い外回りの新潟の直線コース。先頭でエクスペディション、並びかけようとニューダイナスティ。外にファタモルガーナとトレイルブレイザー。その内にサンシャイン横にはカリバーンとカルドブレッサ。そのときインをピッタリにコスモネモシンが急上昇で前に接近。

 そして、何かを思い出したかのように、猛然と前を行くエクスペディションに迫ります。それはここ数戦のコスモネモシンとは別馬のようでした。ゴール前で馬体をエクスペディションの外に併せたコスモネモシンがクビ差捉えて、まさに劇的な優勝。まさかという思いからか、興奮のあまり高々とステッキを片手に右手を上げる松岡騎手の雄叫びが聞こえるかのようでした。

 10番人気のコスモネモシン。単勝は6530円。52Kのハンデにやや重馬場。そしてインコースをピッタリに走らせ、彼女になにか闘争心のようなものを目覚めさせた松岡騎手。3年7ヶ月という競走馬にとっては長い下積み生活から見事に甦らせることができた、人と馬の劇的な勝利でもあったのです。