「あの不利さえなければ、何とかなっていた(勝っていた)と思います。悔しいです」と、声を振り絞るように答える大野騎手。
大野騎手は萩原調教師と共に降着を求めて、裁決に異議申し立てを行ったのですが、結果は覆らず入線通りに決定。今年の「AJCC」は何とも後味の悪い結末となりました。
それではAJCCを振り返ってみます。直前でナカヤマナイトが回避。一昨年の優勝馬トーセンジョーダン、昨年の優勝馬ルーラーシップといったGIクラスの馬が見当たらない組み合わせ。
有馬記念にも出走していたルルーシュが当然ながら1番人気。近走の実績から考えれば当然でした。私にはルルーシュ自身が厳寒期はよくないのではないか、筋肉が硬くなり、従って馬体調整に苦労するのではないか。それに主戦の横山典騎手が同じ日の東海Sでサイレントメロディ(13着)に騎乗する意味はなにか。ルルーシュが危ないとなれば、狙いの馬の範囲が広がると考えました。
予想通りにネコパンチの逃げ。日経賞を一人旅で逃げ切った馬ですが、何分にも宝塚記念以来の実戦。江田騎手が気合を付けての単騎逃げ。他はわかっていたことなので追いかけません。大きくリードを取って行きます。2番手にゲシュタルトと、その外にマルカボルト。すぐ後ろにトランスワープ、内にダノンバラードが追走。
スタートで遅れたルルーシュは中団。アドマイヤラクティがその後ろで、後方にはサトノアポロとマカニビスティ。
後続を離して逃げたネコパンチは久しぶりのせいか3角をまわったところで、息切れしたのか後続が一気に肉迫。ゲシュタルトとその外にマルカボルトがにじり寄ってきました。中団外からアドマイヤラクティも進撃開始。
4角では先頭がゲシュタルト。その背後にマルカボルトとダノンバラードが仕掛けて迫ってきました。その内にトランスワープと外にアドマイヤラクティ。ルルーシュは手応えが悪く中団で動けず。
直線中程では先頭に立ちかけたダノンバラード。このとき急激に内側に斜行。その煽りを受けたトランスワープ。トラブルを避けるかのように内柵ギリギリのところで急ブレーキ。大野騎手は手綱を引いて立ちあがり、完全に頭を上に上げるトランスワープ。直後のゲシュタルトまで影響。
それでも至急、態勢を整えてダノンバラードを必至に追う大野・トランスワープ。2馬身半くらいあった差が1馬身余りまで肉迫したところがゴール。大きく右手でガッツポーズをするダノンバラードのベリー騎手とは正反対の表情の大野騎手。
レース後、電光掲示板の審議のランプは点かず、場内は長い沈黙とため息が流れます。トランスワープの萩原調教師と大野騎手は降着ではないかと、裁決にアピール。
裁決の判断は「不利がなかったとしても勝ち馬に先着できなかった」と、新ルール適用とした裁決判断。ベリー騎手は実効6日間の騎乗停止となりました。
今年からの裁決ルールは、昨年末にJRAの裁決から説明会、質疑応答をしてきましたが、今回のケースはやや合点がいきません。トランスワープは不利がなかったら、十分勝ち負けになっていたと思うからです。実際、ゴール前なのにおよそ1馬身以上も差を詰めてきているし、騎乗した大野騎手も「直線で前に入られて完全に勢いを殺されてしまいました。止まったのと同じです。そこからもう一度脚を使っているので、不利がなければ何とかなっていたと思います」と、悔しい表情。
もし、不利がなければ勝っていたという判断に立てば、当然1、2着逆転の裁決が下されたことでしょう。私の目、そして実際に騎乗したジョッキーの目にも逆転できたということから、新ルールは「多くの競馬ファンが納得できるもの」ということを主眼となって改正したはずですが、今回のケースは何とも微妙な判定だったと思います。
私はJRAとの説明会のときに「不利を受けた馬がどのくらいの差まで追い上げたときに逆転できる状態になるのか」と答えを求めたところ「基準はありません。私たちの目をどうか信じて下さい」ということでした。この点は、今後も同じことが起こりえることでもあり、ハッキリした指針を提示すべきでしょう。