アベコーさん、突き抜けるよ!

 今年初めてのGⅠフェブラリーSは、3番人気のサンライズバッカスが優勝。人気を分けたブルーコンコルドが2着。シーキングザダイヤは9着。上位人気馬の明暗を分ける形となりました。
 レース前、正確にはパドックでメインのフェブラリーSの出走馬が、ファンの前でお披露目し始めたとき、検量室の前を歩く音無調教師を発見。音無きゅう舎からこの日、2頭の馬が出馬。それがサンライズバッカスとオレハマッテルゼ。私は10番人気のオレハマッテルゼに期待。
「先生、音無先生、今日は表彰台がマッテルゼ!ですかー?」と私。
「おっ、アベコーさん、あっ、その洒落は面白くないね。いつも聞いているし・・」と一笑。
 この音無調教師は以前から、私の予想をしっかり聞いてくれる方でもあります。
「で、先生、オレハマッテルゼは雨で時計が速くなるのは有利では?芝向きのスピードが必要となってくると思うから・・」と、切り出すと
「確かにね、左回りに替わったこととか、具合も良くなっているけど、なにしろダートが初めてだから、砂をかぶったらお終いかも。まあ、次かも知れないなあ~」と、トーンは低調モード。
「それより、今日はバッカスが突き抜けるよ、うん、ゴール前で突き抜けて来るから、まあ、見ていて下さいよ。具合が物凄くいいから」と、いつもに増して鼻の穴を大きくしながら、自信たっぷりの表情で音無スマイル。

  そしてファンファーレ!

 長期休養明けだった3走前の武蔵野Sでシーキングザベストの2着に鋭く追い込んだ時が、今回と同じ東京ダート1600㍍。ただ、スタートがいつも悪いのと、強力な先行馬が不在で、前残りが予想されることから、3、4番手候補と判断。
 ところが、ところがレースは考えていたこととは正反対。雨の影響で不良馬場、中団や後方で泥をかぶり、戦意を喪失させるより、前々で走らせてみようと、思ったのかダイワバンディットにトーセンシャナオー、メイショウバトラー、アジュディミツオー、そして我がオレハマッテルゼが、わんさかわんさか飛ばします。
 これは、ひょっとしてオレハマッテルゼの単騎逃げがあるかも、なんて戦前の甘い予測は、ほんの数秒間に霧散。
 前半の半マイルが46秒6で、5F通過が58秒9のハイラップ。先行した馬たちは直線で次々に息切れ。外からグイグイと伸びてきた馬が、そう、あの音無サンライズバッカス。ゴール前であっという間に突き抜けていました。
 表彰台でしてやったり、という顔の音無調教師。さすが、名調教師、名伯楽。恐れ入りました。今年の初めてのGⅠを見事に制覇。いいムードです。今年の音無きゅう舎から目を離せません。
 オレハマッテルゼの次は高松宮記念かも。昨年優勝し、GⅠ2年連続制覇がかかります。音無流によると次だとか。しっかり頭に入れてマッテルゼと行きましょう。

上原師が絶叫!DR・コパさんビックリ?!

 ところは、東京競馬場。2月11日の日曜日。10R「調布特別」芝2000m。こういう舞台設定の中で、裏舞台ではもうひとつのドラマが行われようとしていました。出演者は上原調教師、そして、お馴染みDR・コパさん。上原師はこの調布特別にコパンノスイジンを出走。人気は13頭中10番人気。コパさんは文字通りコパノスイジンの馬主。
 この日、コパさんは早くから受けていた仕事があって、スイジンの応援に欠席。そんなところに上原師の携帯が鳴ったのです。
 「上原先生、コパです。今、仕事先からかけています。実はダメなんです」
 「ああ、コパさん、ダメって何が?」
 「競馬実況をどこもやってないし、ラジオの電波も通りづらいんですよ。で、先生、上原先生に名実況をお願いしようと思いまして…フフフ」
 「そうなんですか、コパさん、わかりました。了解です」と、いつものポーカーフェイスで答える上原師。
 そうこうしているときにスタート。そして上原アナウンサーのコパさん向け特別番、名実況が始まったのです。
 この調布特別は逃げると思われたのが、エイシンサリヴァンただ1頭。この吉田豊騎手が乗るエイシンの単騎逃げで、コパノスイジンはその後を追走するというのが、一般的な見方でした。スイジンの騎手は吉田豊の弟、吉田隼騎手。
 ところが、好スタートを切ったコパノスイジンが先頭。その外から馬体を併せに行くエイシン。
 「スイジンが先頭、スイジンが先頭。あっ、外からエイシン、豊が、こらっ豊、来るな!豊こらっ!下がれ!あっテメー豊、邪魔するんじゃねー」まだ向こう正面あたりのことです。
 「先生!センセー!スイジンはどこを走ってますかーっ!」
 「わからねえ奴だなー、おい、豊下がれっての!」
 「おーい、先生、上原先生、スイジンは…もしもし、あのおースイジン…」
 レースは2頭で、時には並びかけるように、3番手以下を大きく離して逃げ、後続はそれに付いて行くわけにもいかず、直線でも後続馬との差は大きく、どうみても2頭の吉田兄弟の世界。ゴール前で必至に残らんとするスイジンの隼。その外へエイシンの豊。手ごたえはエイシンの豊の方。
 「行けーっ!ハヤトー!ああ、来るな、下がれっー!」
 「先生、どうなってますか~!もしもし上原センセー?!」
 「ああ、ああっ、差し返せーっサシカエセー!!おお、おおおっ」
 「もしもし、どうなりましたかー!」
 「やったあ、勝った勝った!勝ちましたコパさん。おめでとうございます」
 「勝ったんですねー。もしもし、間違いなく勝ったんですねー」
 「はい、間違いありません」
 「いやあ、先生ありがとうございまーす」
 かくして上原調教師が迷実況した調教師ルームのスタンド席の前には、なんとエイシンサリヴァンの大久保洋吉調教師が。これには上原師もビックリ。あの迷実況の風雪にも耐えながら、今回こそはと臨んでまた勝ちを逃した大久保師の心境。そして、平身低頭で恐縮する上原師。
 「いやあ、応援ですから…」と大久保師。目がマジだったとか。

 ほどなくして、コパさんから連絡。
「どう、今夜は銀座に出て来れる?上原先生も来るって!」
 残念ながら先約があるので、泣く泣くお断りしたのですが、上原師の迷実況中継で、その日の夜は、さぞかし盛り上がった祝宴になったのだろうと思います。おめでとうございます、コパさん。実況お疲れ様でした上原調教師。