秋華賞1番人気のホエールキャプチャには、戦前からいやな敗走感のようなものがありました。期待されたトライアルのローズSを制して、形の上ではまさに本番の秋華賞に王手をかけた形。ところが、パドックから醸し出す雰囲気、馬体作りを見て、私は直感的にこれは危ない!という伝達のようなものが脳裏をかすめました。
馬体重がオークス以来で、休養明けのローズSの458Kよりもプラス2K。なあんだプラス2Kか、と思われるかも知れませんが、プラス2Kは重要なのです。例えば、昨年の秋華賞上位5頭は、すべて前走比でマイナス体重。休養明けのローズSを余裕残りの体重で臨み、本番はキッチリ絞り込んで出走する、という鉄の掟のようなものが存在するのだと思われます。
一昨年のレッドディザイアはローズSからマイナス14Kで優勝。絶対ではないにしろ近年この傾向は顕著なのです。とくにトライアルのローズSで優勝した馬は、5年前のアドイマイヤキッス(ローズS1着→秋華賞4着)は、秋華賞でプラス6Kという造りでの敗退でした。
トライアルで優勝すると、どうしてもそこにはトライアルの体調、造りがベストだ、という思いになります。だからトライアルの体調を維持しようと、やっきになります。ところが、他馬はトライアルをステップに再度、一歩攻め込んだ仕上げに取り組んで来るのです。守ろうとする側、追いつこうとする側、この方程式は昔も今も変わりがありません。
そもそもホエールキャプチャは、ローズSが余りにも恵まれた一戦でした。絶好の内枠から好スタートを決めて、インの3番手でスローペースの流れに乗り、4角もピッタリと経済コース。直線で最内から一気に先頭。外から追い込んだマイネイサベル、キョウワジャンヌ、ビックスマイルにクビ・クビ・クビ差まで詰め寄られているのです。それゆえ、秋華賞の3着は当然といえば当然。アヴェンチュラに突き放されたのも致し方ないところです。
さて、2番人気に推されたアヴェンチュラはデビュー当初から注目されて札幌2歳Sで2着、阪神ジュベナイルF4着。スタートの出遅れ癖があって重賞を手にすることができませんでしたが、さすがにオークス馬トールポピーの全妹だけあって潜在能力は確か。長期休養明けの漁火Sで古馬相手に圧勝。更に、重賞クイーンSも古馬相手に連勝。長いブランクはあったものの2歳時よりも逞しく成長して復活。それが秋華賞でも証明されることになったのです。
スタートと同時に外から飛び出して行ったのがメモリアルイヤー。これまでマイル以上の距離を走ったことがないという馬。まず勝ち目がないと踏んだのか、なかば玉砕的に大逃げを打ちます。これなら、ローズS僅差の惜しい4着だったビッグスマイル(前日の堀川特別優勝)を出してやりたかった思いがします。
離れた2番手にゼフィランサス。この馬は12戦もしているのにマイルまでの経験がなく、イチカバチカの精神で、思いきった戦法。その前を行く2頭を見る形で、好枠から出たアヴェンチュラが追走。オークス2着のピュアブリーゼや紫苑Sレコード勝ちのカルマートが好位置を追走。中団の少し前の位置にホエールキャプチャ。そこには内々でキョウワジャンヌ。そして外には、やや掛かり気味にマイネイサベル。出遅れた桜花賞馬マルセリーナは最後方グループで直線に賭けます。
直線入り口では早々に白旗を掲げた逃げるメモリアルイヤー。変わって好位置から一気に飛び出したのがアヴェンチュラ。力強い伸び脚で内から伸びたキョウワジャンヌ以下を振り切って快勝。1分58秒2、ラスト34秒9は、やや重馬場のコンディションとしても出色のタイム。
3着にホエールキャプチャ。直線もそれなりの伸び脚は見せていましたが、今ひとつ迫力不足は明らかでした。また一方で、マルセリーナは出遅れが応えて7着。マイネイサベルは外に出してから、松岡騎手の手綱が引っ張りきれないほどの行きっぷり。引っかかってしまいました。2走目の反動ということがあったかも知れません。不完全燃焼の内容でした。残念です。
この秋の京都はインサイドコースがすこぶる極上に近い馬場。それゆえ枠順による有利、不利の差が顕著ということもできます。秋華賞も多分にそんなところも影響したと思われますが、アヴェンチュラの優勝は本格化の秋というものを、GIの大舞台で見せてくれたような思いがします。
カワカミプリンセス・レッドディザイアとタイ!昨年のアパパネを凌いだアヴェンチュラの秋華賞快走劇!
音無調教師が怒った毎日王冠のある出来事!
「あれはないよな。あんな乗り方はないゾ!」と、検量室から出て来るなり怒り心頭の音無調教師。
この日は、注目の天皇賞の前哨戦「毎日王冠」が行われました。人気は堀きゅう舎のエース級、ダークシャドウに安田記念を制したリアルインパクトの2頭。結局、1番人気はダークシャドウが2倍という圧倒的な人気。
同型馬が不在でシルポートの単騎逃げ。東京コースということもあって、スローで展開することは誰の目にも明らかでした。
予想通りシルポートの一人旅で、前半の1000m通過が61秒1という、なんと未勝利(翌日の未勝利が芝1800mで60秒4)よりも遅い流れ。これで後方にいた馬は絶望的でしたが、優勝したダークシャドウは出遅れたこともあって後方2番手。この位置から直線で馬込みの中に割って入って行き、あと1ハロンから前が開くと、ケタ違いの瞬発力で見事な差し切り勝ち。ラスト3ハロンが32秒7の破格の末脚。
3番手で流れに乗ったリアルインパクトが、ゴール前で先頭に立ち、そのまま押し切る勢いでしたが惜しくも首差の2着。
「ああ、あと3秒待てば良かったよ。あまりにも手応えが良すぎたから、勝負どころで一気に仕掛けて先頭に立ってしまった。あと3秒仕掛けを待てば・・」と悔やむ岩田騎手。
ゴール寸前で外から鋭く追い込んだミッキードリーム。目下3連勝中という上がり馬の勢いを見せつけました。
このミッキードリームと同きゅう舎のダノンヨーヨー。宝塚記念で初めての2200mにもかかわらず、人気のルーラーシップと0秒1差で渡り合ったことを評価。私はこの馬に◎印。スローが予測される展開で、マイラーズSでは好位置を追走。しぶとく3着に食い込んだことから、前で対応してくるものと見ていたのですが、あまりにも最悪のポジションにガッカリ。2コーナーのところでは中団あたりにインから付けていたのですが、どうしたことかジジワジワと下げて行って、3コーナーでは最後方の消極策。4角をシンガリで回ってきたときは、さすがに外に出す時間はないとみるや、仕方なく馬込みの中に突入して、前の馬を掻き分けて前に出ようとしますが、ラスト3ハロンが33秒6という究極の決着。ゴール前では前が壁になり、まさに不完全燃焼の一戦でした。優勝したダークシャドウと0秒3差の接戦ゆえ、あまりにも残念なレース。
検量室でパトロールフィルムを並んで見る音無調教師と北村友騎手。そのとき音無師の携帯が鳴り、終えたばかりの毎日王冠のダノンムローの走りについて説明している様子。
周りにも聞こえる声で話しています。「3、4コーナーをケツで回ってきて、上がりが33秒6では無理ですよね。本人には押してでもいいから中団くらいには付けろ、といっていたんですが・・」と音無師。
そのとき馬具を片付けに来た北村友騎手が、音無師の背後にまでに接近。それに気づかぬ音無師は、騎乗ミスであったことを認めて平謝り。後ろでバツが悪そうな表情の北村友騎手。
検量室から出てきた音無師。それを追って私が音無師に尋ねました。「今日は京都大賞典もありましたが、こっちだったんですね」と私。
「そう、こっちは2頭出していたから確率がいいと思ってね」と、ジョーク混じりのコメントで返す音無師。
「スローはわかっていたので、少し押してでもいいから前に付けて行け、と北村友には伝えておいたんですよ。そしたら3、4コーナーであんな位置だもの。上がり33秒台にどうやって対応するのよ。馬はみんな頑張って本当に良く仕上がっていたし、オーナーにも申し訳なくてね。いや最初は横山典君に頼もうと思っていたんだけど・・。まあ、北村友はクビだな。オーナーがどう判断するかだけどね、俺もあんな乗り方じゃ辛いよ・・」と、肩を落とす音無調教師。
「今後の予定としては、マイルCS一本ですか」と私。
「いや、今、考えているのは天皇賞に登録しようかなと思っているんですよ。ただ、賞金で除外になったらマイルCSだけどね」と音無師。
カンパニーの夢を再びと、この秋のGI戦線に賭けていました。